風バザ@ささげもの
May-fa presents
Dear SuDaKo
「熱」
牧場の朝は早い。動物たちなんか私の何倍も早起きだ。それなのに、眠ることが出来ないでいる。これまで掻いたことのない汗が全身を流れ、すべてを出し切ったかのように身体から力が抜けている。
そんな私の隣で「彼」は先ほどから、私の髪を指で梳きつつ、もう片方の手で首筋や肩回りにびっしりとついた赤い痕を、まるで古人が星座を作っているかのように繰り返しなぞる。時折耳元で「痛そうですね」なんて呟きながら。
思わず「それを付けたのは貴方でしょう」と返したくなるが、ここはぐっとこらえて彼のされるがまま、先ほどの余韻にどっぷりと浸る。すると、違うところがきりきりと痛みだし、それが苦しくて、彼の胸に顔をうずめるのだ。
彼は家庭教師をしている。優しくて、真面目で、頭がいい。見るからにデスクワークタイプで力仕事とは無縁そうなのに、衣服を脱いだ彼は紛れもなく男の人だった。白い肌の下に隠れた筋肉の形に驚き、戸惑い、目を伏せていると、彼は同じように髪を梳かし、「大丈夫ですよ」と囁いた。
実際大丈夫なことなんか何一つないのに、彼の言葉一つでなぜか私はすっかり安心しきってしまい、そのまま彼に身を委ねた。
熱に浮かされながら感じる彼の鼓動。時計の針と同じ速さで脈打つそれは、熱に浮かされた私の耳に唯一届いた音。それだけを頼りに、私は自分の滑稽さと闘っていた。
私は何も知らなかった。彼は何もかも知っていた。
愛するという感情は心だけで表現するものではないことを。
彼が具現化した愛を、私は受け止めることで精一杯で。
それに応えることなんて出来そうもなく。
気がついたら、すべてが終わっていた。
今夜は今までで一番短く、今までで一番長い夜。もうすぐ夜が明ける。それなのに、まだまだ夜は長い。その間ずっと、私は闘い続ける。
生み出された熱と、残った痛みと、霧のような切ない感情と、新たに作られるぬくもり。それらを乗り越えた暁には、すべては喜びに変わる気がする。
そして、私と彼の夜は、まだまだ続く。
Fin
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