風バザ@ベリーショート
「不協和音」
兄さんのしなやかな指が、ピアノを滑る。
もう何年もその姿を見てきたはずなのに、俺は小さい頃から兄さんのそんな姿が好きだったのに、思わず目を背けてしまった。
何も知らない、何もわからない人だったならばきっと、この曲に賛美の拍手を送るだろう。他人にはこの音は理解できない。この曲は不完全であることに気付かない。血のつながりのある俺だから気付く、兄さんの異常。
「兄さん。」
「ああ、ディルカ。いつからそこに?」
「・・・ほんの少し前から。」
嘘だった。本当は、ずっと前から聞いていた。兄さんが弾き始める前から。ううん、それよりももっと前―――
「ごめん。」
「? 一体何のことだい?」
「いや、なんか・・・・・・ごめん」
俺は踵を返し、部屋を出た。兄さんの不思議そうな眼差しが、俺の背中に突き刺さる。振り向けば、一瞬で射抜かれてしまいそうだ。
ずっと前から知っていた。兄さんの音が乱れていること。何が兄さんの音をかき乱しているかも、わかっていた。だから、反射的に謝ってしまったのかもしれない。
兄さんは俺のことを「自慢弟だよ」と言ってくれた。
俺の何十倍も弾いてきたのに、俺以上にピアノを愛していたのに。
興味本位で触っていた俺のほうが、兄さんよりも遥かに上手くなってしまった。
そのことが兄さんを傷つけ、兄さんの心を乱し、音までも乱してしまった。
兄さんが昔のような音を奏でることは、きっとない。
「いやだ・・・・・・そんなの」
俺は兄さんの奏でる姿が好きだ。ピアノを触りだしたのだって、そんな兄さんにずっと憧れていたからだ。いつか兄さんと2人並んで一つの曲を奏でることが出来たらいいと、それだけを願ってきたのに・・・・・・。
その憧れが兄さんを傷つけた。その願いが兄さんを苦しめた。
「俺の音が、兄さんを苦しめるというのなら―――」
俺の音なんて、今すぐに消えて無くなってしまえばいい。
骨ばった指先が、燃え盛る暖炉の炎へと伸びてゆく。
FIN
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以前絵ちゃで愛くるしい絵を披露してくださった、ヨルコさんのHPにて。
日記の中に、音楽を奏でるユリスとディルカ兄弟のことが書き綴られていたので、
ここは族長として大いに妄想しようではないかということで、その妄想の産物。
ヨルコさん、勝手にすみませんでした!(土下座








